第一話
長かった会議が終わると、理子は背凭れに体を預けて大きく伸びをした。隣で同じように会議に出席していた友達の恵がべったりと机に倒れこむ。
「お疲れ様だよね」
ねぎらいの言葉をかけると、恵は寝そべったまま起き上がることもせず大きく溜息を吐いた。机の端からだらしなく両手をたらしている。あまりに行儀の悪い恰好に理子は嗜めるように頭を小突いたが、彼女は頬を机につけるように顔を横にしただけで起き上がろうとはしなかった。
「全く。本当にうちの学校の男どもは祭好きなんだから」
口を尖らせて不平を零す恵に理子は苦笑しながら自分の机の上に散らばったプリントを片付け始めた。楕円形の図が描かれた「進行表」が正しい順番に並べられる。
二人が先ほどまで出ていたのは体育祭についての会議だった。二人はクラスの体育祭委員なのだ。
この学校では毎年春には文化祭が、秋には体育祭が、それぞれ別立てで行われる。したがって、常時仕事をしている図書委員などと違って普段は暇なのだが、体育祭が目の前まで近づいている今頃は山ほど仕事を抱えて過労死しそうなほど忙しいのだ。
「まあ、年に一度のことだから」
未だに机に沈没したまま動こうとしない友達を慰めながら、理子はまとめた紙の束を半透明のファイルに入れる。筆記用具を全てペンケースに納めて立ち上がると自然と正面に面していた窓の外が目に入った。
空は藍色に染まりつつあった。秋の太陽はすでに山の向こう側に姿を消していて、わずかばかり残った陽光によって山が黒く切り抜かれている。
「もう結構遅いわね」
腕時計を見ると六時を過ぎていた。慌ててファイルを手にする。
理子は通学に自転車を使っていた。普通にこいでいくと自宅まで一時間弱。そろそろ学校を出ないと暗い中を走ることになってしまう。
「先、行くね」
理子は起き上がろうとしない友人をおいて、教室を出た。
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